
日本人とご結婚されている外国人の方は、永住許可の申請において、いくつかの条件が緩和される特例措置の対象となります。
この記事では、配偶者ビザから永住許可申請をする場合に受けられる特例措置について入管業務を専門とする行政書士が分かりやすく解説します。
目次
日本人の配偶者が受けられる永住要件の緩和について
配偶者ビザから永住申請を行う場合、通常の永住申請よりも要件が緩和される特例措置が適用されます。特に影響の大きいものとしては、日本での居住要件が大幅に緩和される点が挙げられます。通常10年以上の在留期間が必要となる永住申請ですが、日本人と3年以上婚姻関係が継続し、かつ1年以上日本に在留していれば申請が可能です。
この他にも収入要件が通常の永住申請よりも緩和されます。例えば就労ビザからの申請では、申請者本人に過去5年間で継続して300万円以上の収入が要件として厳格に求められます。しかし、日本人の配偶者の場合、申請者自身に収入がない場合でも永住が許可されます。審査対象となる収入も通常直近5年であるところを直近3年分へと短縮されます。
配偶者ビザでなくても日本人と結婚していれば要件緩和の対象に
この要件緩和は、配偶者ビザの保有者ではなくても、日本人と結婚していていれば対象となります。「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザで日本に滞在している方も当てはまります。
例えば、もともと日本で就労ビザで働いていたが、日本人と結婚した後も配偶者ビザへ変更せずに就労ビザのままで滞在していたケースが該当します。日本人との婚姻期間が3年以上継続し、かつ申請時において引き続き1年以上日本に在留していれば、配偶者ビザからの永住申請と同様に、居住要件の緩和を適用して永住申請を行うことができます。
要件緩和を踏まえた上での日本人配偶者の永住要件
永住許可の要件に沿って、日本人の配偶者が永住申請する場合の具体的な審査ポイントを見ていきましょう。
収入要件(世帯収入で判断)
日本人の配偶者の場合、申請者本人だけでなく世帯全体の収入や資産で判断されます。したがって、申請者自身に収入や資産がない場合でも、配偶者の収入や資産を含めた世帯全体の生計が安定していれば要件を満たすことになります。
世帯での貯金や株式などの資産も評価の対象にはなりますが、それだけでは要件を満たすだけの十分な収入とは見なされません。永住審査では、安定継続的な収入が重視されます。実質的には夫婦のいずれかに定職や安定した収入源があることが求められます。
入管から具体的な収入金額の基準は公表されていませんが、永住許可をスムーズに取得するための目安としては、年収300万円以上(扶養家族が1人増えるごとに50万円加算)とされています。夫婦のどちらか一方がもう一方を扶養している場合、扶養する側(外国人側または日本人側どちらでも可)は年収350万円程度の収入が必要です。
居住要件
日本人の配偶者として永住許可を申請する場合、居住要件が大幅に緩和されます。通常の永住申請では、10年以上日本に在留していることが求められるのに対し、日本人の配偶者は、日本人と3年以上の婚姻関係が継続し、かつ申請日時点で引き続き1年以上日本に在留していれば、居住要件を満たすことが出来ます。
この「1年以上」とは、途切れることなく継続して日本に住んでいることを意味します。ただし、この期間中、海外出張や一時帰国などで日本を離れることが全く認められないわけではありません。日本からの出国が年間100日以内、一度の出国が3ヶ月以内であれば審査への影響はありません。
犯罪・違反歴の有無について
永住審査では犯罪歴の有無は厳しく審査されます。ここで言う犯罪歴とは日本の法律に違反し、懲役、禁錮、または罰金刑に処せられたことがある場合のことです。犯罪歴がある場合には、刑の執行が終わった後、または執行猶予期間が満了した後、一定期間(罰金の場合は5年、懲役・禁錮の場合は10年が目安)を経過していなければ原則として許可されません。
交通違反についても注意が必要です。反則金の納付で済むような軽微な違反であっても、繰り返し行っている場合はマイナス評価となります。特に、酒気帯び運転、無免許運転、大幅な速度超過といった「赤キップ」に該当する重大な交通違反については、過去5年以内に該当する違反があると、それだけで不許可となる可能性が高まります。これら犯罪・違反歴は申請者本人だけでなく、配偶者のものも審査対象となりますので注意が必要です。
納税の有無について
住民税や所得税といった税金の他、年金や健康保険料についても適正に納付していることが求められます。過去に未納や滞納があった場合、申請時までに全て完納していたとしても永住申請が不許可となる可能性が非常に高いです。住民税は直近3年分、所得税などの国税は申請時点で未納がないこと、年金および健康保険料は直近2年分の納付状況が厳しく審査されます。また、日本人配偶者についても、これらの公的義務の納付状況が確認される傾向にあり、世帯全体として適切に義務を果たしていることが求められます。
届出の履行について
引越しをした際の市区町村役場への転入・転居届及び住居地届出、転職や退職、あるいは勤務先の名称変更や所在地変更があった場合の入管への所属機関に関する届出などが該当します。
現在の永住許可申請では、これらの届出を怠っていたことだけを理由に、直ちに不許可となるケースは多くありません。しかし、届出をしていなかった場合にはマイナス要素として扱われ、もし他に審査上の懸念点があれば、それらと相まって審査結果に悪影響を与える可能性が高いです。
在留期間が3年以上であること
申請時に保有しているビザ(在留資格)の在留期間が「3年」または「5年」である必要があります。
公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと
具体的には以下の2つのケースに該当していないことが求められます。
- 特定の深刻な感染症にかかっている場合: 「感染症予防法」で定められている「一類感染症」(例:エボラ出血熱)、「二類感染症」(例:結核)、「指定感染症」、「新感染症」といった、特に感染力が強く社会への影響が大きい病気にかかっている場合。
- 特定の薬物の中毒者である場合: 麻薬、大麻、あへん、覚せい剤などの薬物の慢性的な中毒状態にある場合。
上記で限定されている通り、すべての病気や健康上の問題が直ちにこの要件に関わるわけではありません。
日本人の配偶者が永住申請する場合の注意点
これまで解説した永住許可の要件に加え、日本人の配偶者として永住申請をされる場合、さらに以下に挙げる点にも注意が必要です。
日本人配偶者側の資料提出も必要
入管のホームページには明記されていませんが、日本人配偶者からの永住申請においては、申請者本人だけでなく、日本人配偶者側の関連書類(住民税、年金、健康保険など)の提出も事実上求められるケースがほとんどです。申請者本人が適切に納税していることはもちろんのこと、日本人配偶者もきちんと納付していることが極めて重要になります。
身元保証人は配偶者がなる
日本人の配偶者として永住申請をする場合、その身元保証人は、原則として日本人の配偶者がなるのが一般的です。入管当局も、夫婦の相互扶助の観点から、配偶者が身元保証人となることを自然な形として捉えています。もし、日本人配偶者以外が身元保証人となる場合、なぜ配偶者が保証人になれないのか、その理由を合理的に説明する必要があり、婚姻関係の信憑性が疑われる場合は不許可の可能性が高まります。
婚姻関係が事実上破綻している場合は注意
日本人の配偶者としての要件緩和措置を受けて永住申請をする場合、単に婚姻関係があるという形式的な側面だけでなく、夫婦が同居し一緒に生活をしているなど実質的に婚姻関係があることが求められます。
夫婦関係が悪化して既に別居しているといった場合でその事実を隠して永住申請を行った場合、永住審査の過程で虚偽申請と見なされる可能性があります。虚偽申請は、永住許可が不許可になるだけでなく、場合によっては現在保有している配偶者ビザの更新にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
やむを得ない理由(例:単身赴任、病気療養のための別居など)で一時的に別居している場合は、誤解を招かないようその合理的な理由を入管へ丁寧に説明する必要があります。
まとめ
日本人の配偶者として永住申請する場合、要件緩和という大きなメリットがあります。通常10年を要する日本での居住要件が「3年以上の婚姻と1年以上の日本在住」へと大幅に短縮され、生計要件も申請者単独ではなく世帯全体の収入で判断されるため通常の永住申請よりも要件を満たすことが容易です。この要件緩和措置は、日本人と結婚していれば就労ビザで滞在中の方にも適用されます。
しかし、審査対象は申請者本人に限られない点に注意が必要です。日本人配偶者自身の犯罪歴の有無や、税金・年金・健康保険料といった公的義務をきちんと果たしているかどうかも審査対象となります。
当事務所では、日本人の配偶者からの永住許可申請をサポートしております。永住許可申請でお困りの方は、まずは一度ご相談ください。
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